拝殿と打って変わって御本殿には優雅な彫り物が! [諏訪神社上社] 長野県

獅子鼻 長野県
プロフィール

彫師歴四半世紀余。東京六本木にて刺青芸術工房龍元洞を主宰。
日本のみならず、世界中で日本伝統刺青に注目が集まる中、世界の刺青大会に参加、北米・南米・欧州・豪州など各国の刺青師と交流。日本古来伝統の手彫りの技術の継承・研鑽とともに、日本文化の紹介にも力を注いでいます。

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令和二年五月吉日、長野県佐久穂町の諏訪神社上社に参拝しました。

ここの神社の詳細は不明です。諏訪神社なので御祭神は建御名方神たけみなかたのかみでしょう。田んぼを挟んだ向こう側に下社がありましたが、彫り物は無し。

鳥居

拝殿

諏訪神社上社拝殿

視線を感じたので目をやると、向拝の木鼻に獅子が一対。

向拝木鼻

独特な感じです。

上手くありません。巻き毛のグルグルも不均等で、むしろ下手。でも、何か心に刺さるものがありますね。

獅子

御本殿

鑑賞の妨げにならず、理想的な覆屋ですね。私にとってはですけど。

諏訪神社上社覆屋

立派な御本殿がありました。

諏訪神社上社御本殿

向拝

木鼻には。拝殿の木鼻とは明らかに作者が違いますね。

御本殿向拝

水引虹梁上の彫り物は浦島太郎と思われます。

浦島太郎

蝦虹梁の龍も良い感じです。

蝦虹梁 龍

両側とも手挟みは鶴。

蝦虹梁 龍

左面

御本殿左面

胴羽目は雨乞い小町。

雨乞い小町

素晴らしい彫りです。

小町

脇障子は鷹。もしかしたら鷲。

鷹

背面

胴羽目はです。この龍、後ろ足が見当たりません。波に隠れているのだ、という事も出来ますが、尻尾があるのだから、後ろ足も欲しいところです。

龍

もう四半世紀以上前の事なので時効と思って、恥を忍んで言いますが、龍の刺青を彫っていて後ろ足を忘れた事があります。大きな作品を任される様になって2、3人目の事です。大きな作品は一回では終わらないので、つい確認を怠ってしまったのです。お客さんに指摘された時は青くなりました。そのお客さんには謝り倒し、師匠に泣きついて後ろ足を付け足して貰いました。素人目には全く分からなくなりましたが、失敗は失敗です。理解のあるお客さんで本当に良かった。今ではとにかく確認、確認、また確認です。

右面

御本殿右面

胴羽目は干珠と満珠の話から、武内宿禰たけうちのすくねが龍宮の宝珠を海に投げ入れる場面。刺青で干珠満珠と言えばこの場面です。左には神宮皇后じんぐうこうごうがいます。

干珠満珠

脇障子はこちら側も鷹、もしかしたら鷲。

鷹

拝殿と御本殿のギャップが激しい神社でした。

刺青師・龍元

109(2020.05.26)

コメント

  1. より:

    時効の件、その様な過去があったのですね、その経験が今の龍元さんに生かされていると感じております。 龍元さんの事はブログでしか存じ上げていないので、知ったようなこと書くな!!と思うかもしれませんが、彫刻の題目やその意味・物語の内容をよく把握されており、調べる労力も並々ならぬ労力が費やされていると思っております、調べ、内容を理解し発信する、龍元さんのブログは勉強になる事ばかりです。

    • 龍元 より:

      私もグーグル先生に教えて頂いております。昔は図書館通ったり大変でしたけどね〜。良い時代になりました。と言いたい所ですが、今はお客さんも刺青の題材についてはかなり勉強してくるのでこちらも大変です。

  2. Shin-Z より:

    こんばんは。

    神功皇后の彫刻、やはり宝珠を海に返す場面なんですか?
    龍元さんが刺青で干珠満珠と言えばこの場面と仰るなら間違いないと思いますが。
    実は私はこの彫刻に関して少し悩んでいます。
    もう一つの宝珠がどこかにあれば、すぐに納得出来るのですが。

    検索で見付けたものの中に武内宿禰が海中より見付けた如意宝珠を掲げている場面の絵がありました。こちらの彫刻は海に投げ入れる前に振りかぶっているようにも見えますし、見付けた宝珠を掲げているようにも見えます。そこが悩みの種なのです。

    ところでちょっとお願いがあります。
    こちらの神社の彫刻は技巧的に優れたものと思いますし、題材も私の好きな雨乞い小町と神功皇后が彫られています。そんな貴重な彫刻があるのにとても無防備です。実は私が二月二日に行った時、神功皇后の彫刻に何か(なんだったか忘れました。)が立て掛けられていて、全体を鑑賞することが出来ませんでした。幸い簡単に中に入れそうだったので、入って邪魔物を移動しました。龍元さんも実際にご覧になって無防備さはよくお分かりのことと思います。なので時平神社のように社号と所在地を伏せて頂きたいのです。私の全く身勝手な希望なので無理なら仕方ないですが、ご検討宜しくお願い致します。

    • 龍元 より:

      そうなんですよ、実は私もどっちなのかなと悩んだ事があります。それで今までは投げ入れる場面でも掲げる場面でもどちらでも良いと思っていました。

      波に押し上げられる宝珠を描いた絵もありますし、海神が海から宝珠を船上の武内宿禰に手渡す場面を描いた絵もありますので、この構図がその直後の場面を描いたものという解釈も成り立ちます。でも、この構図で全体としては戦闘シーンという絵もあります。

      それで、その時によってって感じになってます。でもまあ、こう教わったし、こっちの方がカッコいいので「投げる」にする方が多いかもしれません。

      話によって異同はありますが、私の理解では如意宝珠と干珠満珠は同じものです。一つか二つがポイントになるというのは考えた事もありません。ご指摘ありがとうございます。調べてみます。

      神社名を伏せる事については検討します。

    • 龍元 より:

      調べた所、ほぼ同じ構図で狩野芳崖が「武内宿禰投珠図」というのを描いています。こちらは神功皇后がいないので違う場面の可能性はありますし、有名な画家でも間違う可能性はありますが。

      干珠満珠が如意宝珠と同一視されるというのは、私は勝手に思い込んでましたが、割と一般的にあるみたいです。

      結局今まで通り、伝説というのは色々あるという解釈で良いのかなって事に落ち着きました。

      そうだという意見より、ソレどうなの?という意見の方がより勉強になります。これからもドンドン突っ込んで下さい。ありがとうございました。

      • Shin-Z より:

        わざわざお調べ頂きありがとうございました

        神功皇后の伝説は確かにいろいろあり過ぎですよね!
        三韓征伐にしても、上陸しただけで新羅が降伏してきたとされているものや、干珠満珠をうまく使って勝利したとされているものなどありますしね。私も投げ入れる場面ととらえるようにしようかと思います。かっこいいので(笑)

        社号の件、私の我儘で不躾なお願いをしてしまって申し訳ありません
        そちらについてはどうかお忘れください。
        懲りずに今後ともよろしくお願いいたします。

        • 龍元 より:

          社号の件ですが、これは私も色々悩んでいるんですよね。錺さんは全部伏せているし、その方が良いのかなと思った事もあります。
          一応、去年の暮れ辺りから、「覆屋・玉垣などが無いもの」は伏せようと決めています。「無防備+良い彫り物」という基準だと境目が難しいですよね。う〜ん、もうちょっと考えさせてください。

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