建造年か、彫師か、彫師の生年か、どれかが間違ってんじゃないか、と思う私が間違ってんの?立川音吉 [久伊豆神社] 埼玉県

葡萄に栗鼠 神社仏閣
プロフィール

彫師歴四半世紀余。東京六本木にて刺青芸術工房龍元洞を主宰。
日本のみならず、世界中で日本伝統刺青に注目が集まる中、世界の刺青大会に参加、北米・南米・欧州・豪州など各国の刺青師と交流。日本古来伝統の手彫りの技術の継承・研鑽とともに、日本文化の紹介にも力を注いでいます。

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令和三年五月、埼玉県白岡市の久伊豆神社に参拝しました。

篠津久伊豆神社鳥居

康治元年(1142)創建
安政元年(1854)より五年の歳月をかけ社殿造営
彫師 立川音吉
御祭神 天穂日命あめのほひのみこと 大己貴命おおなむちのみこと 大山祇命おおやまつみのみこと

篠津久伊豆神社拝殿

御本殿

裏へ廻ると立派な御本殿がありました。彫刻保護の為に庇が掛けられていますが、ちょっと頼りない感じですね。近年台風などが大型になっているので心配になってしまいます。

篠津久伊豆神社御本殿

御本殿向拝には仙人と唐子がいます。

梅福仙人

反対側には鳳凰がいるので、コレは簫史しょうしでしょうか?でも笛もしょうも吹いてません。鳳凰に乗っていれば梅福仙人、鳳凰の脇にいれば簫史仙人と判断していますが、簫史は通常、縦笛か笙を吹いています。

鳳凰

御本殿左面

篠津久伊豆神社御本殿

胴羽目は龍に矢を射掛ける侍。本では源頼政の鵺退治となっていますが、退治しているのは九つの頭を持った龍なので、これは多田満仲ただのまんじゅうの九頭龍伝説でしょう。

多田満仲 九頭龍伝説

「ただのまんじゅう」なんてふざけた名前ですが、正式な名乗りは源満仲みなもとのみつなか

清和源氏の祖である源満仲が住吉大社に祈念したところ、「矢の落ちたところを居城にせよ」とのお告げがあった。満仲が白羽の鏑矢を天に向けて放ち、郎党たちが探したところ、矢は多田沼に棲みついて住民を苦しめていた「九頭の竜」に命中していた、という話。

芳年の絵では龍の頭は一つになってます。

多田満仲

縁下腰組間琵琶板にはお馴染みの楊香。

二十四孝 楊香

我らが楊香はまるで功夫カンフーの使い手。

楊香

妻飾りには葡萄に栗鼠。この位置にあるのは珍しいと思います。

葡萄に栗鼠

海老虹梁の龍もシブいです。

海老虹梁の龍

御本殿背面

篠津久伊豆神社御本殿

胴羽目は三韓征討の 神功皇后武内宿禰たけうちのすくね 龍宮より宝珠を得る です。

神功皇后と武内宿禰 龍宮より宝珠を得る

おお、まるで博士の様な武内宿禰です。

武内宿禰

口をポカーンと開けてアホっ子面の神功皇后。

神功皇后

脇障子は背面から見る構図で亀仙人の黄安。

黄安仙人

反対側は陳楠仙人ちんなんせんにん。日照り続きで人々が苦しんでいた時、鉢から龍を呼び出し雨を降らせたと伝わります。

陳楠仙人

縁下腰組間琵琶板には二十四孝から閔子騫びんしけん。ここの閔子騫は順当な構図ですね。その下には応龍。

二十四孝 閔子騫

御本殿左面

篠津久伊豆神社御本殿

胴羽目は天岩戸。

天岩戸

天鈿女命あめのうずめのみこと。オカメ顔です。稀に美人の天鈿女がありますが、やっぱりオカメ顔が良いですね。

天宇受売命

手力男命たじからおのみこと

手力男命

天照大神も良いお顔です。

天照大神

子泣き爺の様な滑稽感がタマらない猿田彦命さるたひこのみこと。やけにシリアス顔。

猿田彦命

縁下腰組間琵琶板には二十四孝の大舜たいしゅん

二十四孝 大舜

こちら↓は千葉県香取市の山倉大神の玉垣欄間。ほぼ同じ構図ですから同じ下絵を参照したのでしょう。両方とも象が邪悪な目付きをしているという事は、これは下絵由来の可能性が高いと思います。舜!気を付けて!

二十四孝 大舜

海老虹梁の龍は両側ともに登り龍でした。

海老虹梁の龍

木階きざはし脇羽目には変わった物がありました。コレは霊猫(麝香猫じゃこうねこ)という事で良いのでしょうか?

霊猫

栃木県小山市の高椅神社楼門↓にも似た彫り物が有りました。

霊猫(麝香猫)

立川音吉というのは佐野の立川芳治の弟子で、天保13年(1841年)生まれ。立川流とは関係あるのだろうか?諏訪立川流と江戸立川流というのがあるらしいけど。

社殿を建て始めたのが1854年。完成が5年後。

ええ〜!音吉満13歳の時に建て始めて18歳で完成?昔の人はなんでも早いけど、いくら何でも十代後半の少年にこの完成度の彫り物が彫れる?

彫刻は後からはめたのかな?

って言う作りには見えなかったけどなぁ。

実は彫師が違うのか、彫師の生年か、社殿の建造年か、違うと思うオレか、どれかが間違ってんだろうな、と思います。

刺青師・龍元

073(2021.06.06)

コメント

  1. onijii より:

    onijiiです。
    いい顔してますねえ!
    渋さが溜まりませんね!!
    像の目つきや、霊猫がいいですねえ!!!

    「ただのまんじゅう」、「おかめ顔」に
    口元が緩みました。(笑)

    • ここら辺は彫り物のレベルが高いですね。
      どれも良い顔をしています。
      霊猫は珍しいですよね。
      珍しい彫り物いっぱいの神社で大興奮でした!

  2. 彫刻大好き! より:

    立川音吉が13〜18歳の作品かぁ….とは、自分も同じく思ってました。
    ただ、同時期に須賀神社の山車も音吉は彫ってるんですよね。
    なので、製作時期は合ってるんだと思います。
    じゃぁ、生年が間違いなのかというと、これも合ってるんじゃないかと。
    自分は、立川音吉が師と共に彫り上げた作品で、製作の主体は師の方だったと思います。それが年月を経ることによって、より名の知られた音吉が彫ったというように変わったのかな、と。

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