義家と頼朝義経兄弟 嶋村源蔵 飯田岩次郎 [川越氷川神社 其の一] 埼玉県

川越氷川神社御本殿 神社仏閣
プロフィール

彫師歴四半世紀余。東京六本木にて刺青芸術工房龍元洞を主宰。
日本のみならず、世界中で日本伝統刺青に注目が集まる中、世界の刺青大会に参加、北米・南米・欧州・豪州など各国の刺青師と交流。日本古来伝統の手彫りの技術の継承・研鑽とともに、日本文化の紹介にも力を注いでいます。

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令和三年九月中旬、埼玉県の川越氷川神社に参拝しました。

ここは以前に2回参拝しましたが、最初の時は、狭い隙間に潜り込む度胸も無く、遠くの物をきれいに写す腕も機材も無く、見事に惨敗。2回目は去年の暮れでしたが、工事中で裏に回れず惨敗。今回はひとけの無い早朝に参拝しました。

朝6:30に到着、光量が足りず写真の写りがイマイチ。なので去年撮った写真も混ざっています。鳥居と向拝の写真が去年、他は今回撮った写真です。

川越氷川神社鳥居

欽明天皇二年(540)創建
天保十三年(1842)本殿建立
御祭神 素戔嗚尊すさのおのみこと 奇稲田姫命くしいなだひめ 大己貴命おおなむちのみこと 脚摩乳命あしなづちのみこと 手摩乳命てなづちのみこと
彫師 嶋村源蔵 飯田岩次郎

川越氷川神社拝殿

御本殿。神社業界の間では小建築だそうですが、僕にとっては大きい御本殿の部類に入ります。

川越氷川神社御本殿

唐破風懸魚の鳳凰。今は単眼鏡とズームレンズを常備しているので、近寄れない御本殿もなんとか鑑賞出来ます。

鳳凰

その上の千鳥破風の懸魚には応龍。破風入りには鶴がいましたが、上手く撮れませんでした。

応龍
川越氷川神社御本殿

向拝中備には龍。これは去年の写真です。やっぱり写真は昼間が良いな。でも、人気のある神社なので時期を考えないと昼間は非常に混んでます。

向拝の龍

海老虹梁の龍がスゴい!子引き龍です。

海老虹梁の龍
川越氷川神社御本殿

胴羽目は八幡太郎義家。〜追記(2022.03.03)これは義経が由緒ある梅を手折るのを禁じる制札を弁慶に立てさせた『難波の梅』の逸話です。torikeraさんにご教示頂きました。詳しくはコメント欄をご覧ください。追記終わり〜

八幡太郎義家

義家は奥州下向の際に名古曽なこその関を越える時、山桜が散るのを見て「吹く風を なこその関と 思へども 道もせに散る やまざくらかな」と詠んだと伝えられます。文武両道の風流人です。

源義家

脇障子は孔雀。

孔雀

背面には胴羽目が三枚。左側は波と松と鶴です。

源頼朝放生会

中央の板は鶴を放している人達。

源頼朝放生会

右の板は源頼朝。

源頼朝放生会

背面胴羽目三枚で鶴ヶ丘。源頼朝が由比ヶ浜で千羽の鶴を放したという鶴岡八幡宮放生会つるおかはちまんぐうほうじょうえの場面です。

川越氷川神社御本殿

左の板には「東都神田川住 嶋邑俊元八代孫 彫工 嶌邑俊表◯」と彫られていました。ちょっと薄くて見えづらいのですが、むらという字は良いとして、俊元の苗字は普通の嶋なのに、俊表の方は山冠に鳥の嶌です。なぜ使い分けてるのかな?

東都神田川住
嶌邑俊元八代孫
彫工 嶌邑俊表◯

案内板には嶋村源蔵ってなってたけど、源蔵=俊表という理解で良いのでしょうか?

川越氷川神社御本殿

蝦虹梁の龍。二本分の長さがあるので龍も二匹。

海老虹梁の龍

大きいので細長く見えますが、実際にはかなりの太さ。

龍

左面胴羽目は牛若丸と浄瑠璃姫の出会い。数ある義経伝説の一つですね。

牛若丸

自分の氏素性を悟った牛若丸は、鞍馬山を出て藤原秀衡に身を寄せる為に奥州を目指します。岡崎の矢作付近で偶然通り掛かった長者の家で、浄瑠璃姫じょうるりひめの奏でる見事な琴の音色に惹かれ、思わず笛を取り出し和する牛若丸。

牛若丸に恋をしてしまった浄瑠璃姫は牛若丸を追い掛けますが、身分の違いを知った母親に幽閉され、最後には入水して果てます。悲しい恋の物語ですなぁ。


以前は年一で公開していたみたいですが、最近はコロナでどうでしょう?近くで見るのが1番ですが、あまり混んでる所は苦手です。 

〜追記(2021.10.03)川越市の観光ガイドの方から公開情報を頂きました。毎年、川越祭り(10月第3週の土日)の1日目に公開しているそうです。昨年今年と川越祭りは中止になりましたが、来年は川越市制100年なので、山車29台全部が引き回され、川越氷川神社本殿の彫刻も公開されるとの事です。その頃にはコロナ禍が落ち着いていてくれる事を祈ります 追記終わり〜

他にもまだまだ良い彫り物があったので其の二に続きます。

刺青師・龍元

116-01(2021.09.25)

コメント

  1. onijii より:

    onijiiです。
    1ヶ月ほど前に行ったばかりです。
    噂通り参拝者が多かったです。
    ちゃっかりと、彫刻を解説をした
    パンフレットを頂いてきました。

    嶋村源蔵(俊表)が7年をかけて
    彫り上げたそうですね。
    頼朝の脇の籠の中には鶴が彫られて
    いるそうです。凄い!
    籠彫りはどうやって彫るんだろう?
    いつもの素朴な疑問です。(笑)

    • パンフレットがあるのですか。
      三度も行っていて気が付きませんでした。

      やっぱりこの大きさだと七年も掛かるんですね。

      籠彫りは凄いですね。
      ちょっと手元が狂ったら今までやって来た事がオジャンですから、相当集中するのでしょうね。

  2. 鈴木登喜夫 より:

    いつも、楽しく読ませていただいています。ありがとうございます。私は、川越市シルバー人材センターで観光ガイドをしています。
    川越氷川神社本殿の公開は、毎年、川越祭り(10月の第3週の土日)の1日目に公開しています。
    残念ながら、昨年、今年と、川越祭りは中止になりましたので、川越氷川神社本殿の彫刻の公開は、ありませんでした。
    来年は、川越市制100年ですので、山車も29台全部が引き回されると思われます。川越氷川神社本殿の彫刻も、公開されると思います。

    • 鈴木様、

      いつも読んでくださっているとの事、嬉しく思います。素人が本やネットで調べたり、同好の士と情報交換したりして書いている物なので、間違い勘違いも沢山あると思いますがご容赦ください。

      川越まつりは10年近く前に行った事があります。来年は盛大なモノになりそうですね。ぜひ訪れてみたいと思います。
      公開情報ありがとうございます。

  3. 鈴木登喜夫 より:

    川越市の砂久保稲荷神社の南側の胴羽目は、確かに鍬を持つ農夫ではなく、猩々ですね。盃と柄杓をもっていますし、左側には、酒の甕があるように見えます。勉強になりました。
    いろいろなところに行かれて沢山見られているので分かるのでしょうね。勉強になりました。
    その他、大袋白髭神社の大己貴命の大鷲退治や雀の森氷川神社の黄安仙人も、そうです。看板の記述を鵜呑みにしていました。

    • 正面からそんなに言って頂くと気恥ずかしい限りです。

      砂久保稲荷神社の案内板は明らかに間違いですね。

      大袋白髭神社と越生町の大宮神社には同じ彫師の同じ題材と思われる胴羽目がありますが、片方の案内板では大己貴命、もう片方は源頼政と解説されています。

      大己貴命の大鷲退治は一般に男性が剣で怪鳥を退治する姿が描かれるので、この時は大己貴命が正解と思いましたが、最近では頼政の可能性もあるのでは?と思っています。

      何故なら剣を持った男性が大己貴命とすると、隣で弓矢を持った人は誰だ?という話になるからです。大宮神社には剣を持った人は3人もいるし、両社とも弓矢を持った人の方が大きい。むしろこっちの人が主役なのでは?

      なんて考えて色々調べたりしてます。本当に奥が深いです。

      雀の森氷川神社の脇障子は、吉祥図柄の鶴亀という事で黄安と林和靖が選ばれたのは間違いないでしょうから、案内板が間違いとまでは言えないと思います。

      こんな感じで深みにはまって楽しんでます。変態です。なので、私の間違いや違うご意見があればドシドシ指摘して下さると嬉しいです。

  4. torikera より:

    こんばんは。

    いつも大変興味深く、色々なことを学べるサイトとして拝見させていただいています。社寺の彫刻の奥深さや面白さを教えていただける本当にありがたい記事ばかりで感謝しております。

    さて、川越氷川神社の本殿彫刻ですが、昨年新座の大和田氷川神社本殿で嶋村源蔵(俊表)の彫刻と出会い、昨年の秋に川越氷川神社、先日は越生の八幡神社と巡る事ができました。

    川越氷川神社の彫刻についてブログ記事をまとめるにあたり、神社でいただいたパンフレットの内容を噛みしめながら記事を書いていた時に、東面胴羽目題材「義家・勿来の関」についていくつか腑に落ちない点があり、題材がパンフレットで紹介しているものと違うのではないか、と資料をまとめ神社と川越市の博物館に送付しました。数日後博物館の担当者から、こちらの指摘通りであろうと文化財保護課担当も言っていると、返信がありました。ただし、最終的には、神社の判断に任せたいとのことでしたので、「それは了解」と返信しています。

    今日現在、パンフレットを制作した氷川神社様から返信がありませんので、経過の詳細についての記事は書いていません。私も素人で、歴史の知識も半端!1日位ネットで調べた「にわか勉強」で得た事を掲載しているだけですので、自信はありません。

    ただ、自分で感じた疑問をもとに、ネットで様々な資料、特に画像を探して、探した画像と出会えた時のワクワク感は、正直楽しいものでした。結論がどうであれ、素人でも素人なりに彫刻と向き合えたことの喜びは、生涯忘れる事ができないでしょう。

    長々と書いてしまいましたが、「龍元洞」様にも、ぜひ私の疑問点解決の謎にご参加をいただき、ご意見をいただければ幸いです。

    ※最後になりましたが、川越氷川神社本殿彫刻の背面にある嶋村源蔵(俊春)の札について、記事中こちらのサイトをリンクさせていただきました。もし不都合がございましたらお知らせください。

    • Torikera様、
      コメントありがとうございます。
      記事拝見しました。ご指摘の東面胴羽目は「難波の梅」で間違いないと思います。神社側解説に対する疑問点、自説の根拠・出典の提示など完璧だと思います。ご指摘ありがとうございます。
      間違いの指摘や自分と違う意見に触れる事は成長のきっかけになるありがたい物だと思っています。これからも色々教えて頂けると嬉しいです。

  5. torikera より:

    龍元さん、こんにちは。
    先日は「電母」情報ありがとうございました。

    さて、川越氷川神社本殿の東面胴羽目彫刻の題材の件ですが、今日現在神社からは何の連絡もありません。どうやら龍元さんの予想が的中したようです。

    昨日、こちらにもコメントを寄せていらっしゃる鈴木登喜夫様よりコメントをいただき、昨年末に氷川神社が写真集を出したそうです(一般には販売されないもの)が、その中の解説も「義家」「勿来の関」のままだったとの事。私たちには分からない神社の「都合」が働いているのでしょうか。

    • トリケラさん こんにちは、
      そうですか。ご報告ありがとうございます。手紙を出されたそうですが、その手紙は記述変更の権限のある人に届かなかったのかも知れませんね。と、解釈しておくのが精神衛生的に良いと思います。川越市観光ガイドの鈴木さんにも知っていただけたのですから、時間は掛かるかも知れませんが、少しづつ広まっていくと思います。

      写真集が出たのですか。ぜひ欲しいですが、一般に販売されないという事は、手に入れるチャンスがあったとしても相当高い物になりそうですね。

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