電話噺第4弾

富士 いろいろ
富士
プロフィール

彫師歴四半世紀余。東京六本木にて刺青芸術工房龍元洞を主宰。
日本のみならず、世界中で日本伝統刺青に注目が集まる中、世界の刺青大会に参加、北米・南米・欧州・豪州など各国の刺青師と交流。日本古来伝統の手彫りの技術の継承・研鑽とともに、日本文化の紹介にも力を注いでいます。

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最近はお客さんとはFacebookやLINEで連絡を取る事が多いのですが、急ぎの連絡には電話をお願いしています。なので旅仕事に出る事も多い私は、外出する時には電話を携帯に転送しています。

数年前のある日の朝、出張先のホテルで携帯が鳴りました。男性の声で、”親父の名前を入れたい”との事だったので、文字や名前はお断りしている旨を告げて電話を切りました。それから20分程経って、また同じ人から電話が掛かって来ました。”親父にどうしても今日入れて来いと言われた”との事。私は再度、人の名前はやらない事を説明して電話を切りました。しばらくしてまた電話が鳴りました。

男:「そちら六本木ですか?今◯◯にいるんですけど、どれ位で行けますか?」

今思えば、出張に出てて留守にしている、と言えば良かったのですが、イライラした私は
「だから、文字とか名前とかはやんないンですよ」
とだけ言って電話を切りました。それからまた2、30分して、

男:「今六本木に着いたんですけど、どうやって行けばいいですか?」

近づいて来てる‼︎ 
「来てもやらないよ」

数分後、また掛かって来て
「今建物の前に着いたんですけど…」

尋常じゃありません。私は稲川淳二の怪談噺を思い出して「今お前の後ろにいるよ~」なんて言われたらどうしよう、と背筋が冷たくなり、思わずドアを開けてホテルの廊下を確認してしまいました。

それっ切り電話は掛かって来ませんでした。多分諦めたのだと思います。

こんな話ばかりだと、刺青を入れる奴はロクでもない、なんて思ってしまうかも知れませんが、長時間の痛みに耐え、お金も根気も必要な作業です。大多数のお客さんは、礼儀正しく常識をわきまえた、その道で少なからず成功していらっしゃる方ばかりです。念のため。

刺青師・龍元

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