江戸時代後期の読本・合巻に登場する盗賊・忍者・義賊。歌舞伎、浄瑠璃、映画などに翻案多数。
自来也
「自来也説話」読本 文化三年(1806)刊 感和亭鬼武 作
自来也は三好家の浪人、名前を尾形周馬寛行。盗みに入った家の壁に「自来也(自ら来たる也)」と書き残して行く。中国・宋代の頃「我来也(われ来たる也)」と壁に書き記した実在の盗賊に着想を得たと言われている。
自来也は妙香山で出会った異人に術の伝授を請うが断られる。ある夜、夢の中で異人に助けを求められ、目覚めた自来也が妙香山に行くと、巨大な蝦蟇(がま)と蟒蛇(うわばみ)が睨み合っていた。実は異人の正体は蝦蟇の精霊であった。自来也は鉄砲で蟒蛇を撃ち殺し異人を救うが、異人は力尽きて死んでしまう。異人は死ぬ間際に自来也に秘伝の術を記した巻物を譲る。
以降、自来也は富豪や商船から財を奪い、主家の仇である石堂家を討とうとするが、最後は石堂家の武士 万里野破魔之助保義(までの はまのすけ やすよし)の術に敗れ自刃する。
児雷也
「児雷也豪傑譚」合巻 天保十年(1839)-明治元年(1868) 未完 美図垣笑顔 他 作
児雷也は筑紫の城主 尾形左衛門弘澄の遺児で、名前を尾形周馬弘行。雷獣を捕らえた事で児雷也と呼ばれた。妖術を使って御家再興を目指すのは自来也に同じ。
児雷也は妙香山に数百年も棲むという仙素道人に妖術を伝授された。ある日、夢の中で助けを求められた児雷也が駆けつけると仙素道人は大蛇と睨み合っていた。児雷也は鉄砲で大蛇を退治する。ここまでは自来也にほぼ同じ。この後、児雷也の配下であった賊徒 黒姫夜叉五朗鬼角が仙素道人を射殺する。実は夜叉五郎には先ほど仙素道人と睨み合っていた大蛇の執念が宿っていた。以降、児雷也と夜叉五郎の死闘が繰り広げられる。
その後、夜叉五郎とは、更科家の家老の姫松枝之進(姫松力之助の祖父)を殺害し、名前を変えて黒姫山に巣食っていた更科家の悪臣・龍巻荒九郎であった事が判明する。
名場面
新たな敵、蛇の腹から生まれた盗賊 大蛇丸 が児雷也を脅かしている所に蛞蝓(なめくじ)の術を使う 勇婦綱手 が登場し、海の上で 三すくみ となる場面など。
原作では、夜叉五郎と 大蛇丸 は別人であるが、同一人物として扱う翻案物もある。
「児雷也豪傑譚」の執筆が30年近く続いて作者も交代し、また、合巻という媒体の性質上、設定や展開には矛盾や錯誤も見られる。
読本と合巻
物語や伏線を全編通じて展開して読者に読ませ続ける読本と異なり、合巻はその時々で趣向を凝らして年に2〜3編まとめて出された。また、主な読者層が女性や子供だった為に平易な文章で書かれていた。
挿絵の描写も読本の自来也の髭面に比べると合巻の児雷也は男前に描かれ、本文中にも
「光源氏の君とても気圧されつべう雅男なり」
との記述があるほど、男前の設定になっている。
刺青師・龍元
関連記事
刺青図柄の意味 綱手姫
刺青図柄の意味 大蛇丸