伝統刺青 額彫り1

伝統刺青 額彫り1

世界で高評価を受ける日本伝統刺青。最大の特徴である額彫りについて解説。第1回目。肩額、袖の長さとタイコの形について。           

額彫り

日本の伝統刺青と海外の色々な国の刺青の決定的な違いといえば、やはり額彫りというのがあると思います。

額とは、雲や風、波や岩など、主題を引き立てるように付けられた背景の事を言います。この額の良し悪しで主となる絵柄を生かしたり殺したり、 とても重要な部分であり、彫師の力量が問われるところでもあります。

この額には体の部位によって決まった形があり、それぞれ呼び名もあります。 

肩五分袖

「肩」の代わりに単に「腕」と言ったり、「カイナ」と呼ぶ所もある様です。胸の部分はタイコといいます。ヒカエと呼ぶ所もあります。

稀に、胸のタイコ部分なしでという注文もあるのですが、それではアメリカンタトゥーになってしまうので、お客さんにはタイコがあってこそ伝統刺青である事を理解して貰っています。

「袖の長さは肘から指二本上」と言ったりしますが、そこを標準として長め短め、絵柄や体格により格好の良い長さに調節します。希望があれば彫師に伝えると良いでしょう。ただ、あまり短いと格好悪いです。稀に三分袖という注文もありますが、三分袖という呼び名はありません。

注意しなければならない事は、五分袖は半袖Tシャツなどを着ると見えてしまうという事です。お客さんの中には、どうせ半袖を着れないならと言って七分や九分にする人もいます。

神奈川沖浪裏の巴御前
神奈川沖浪裏の巴御前

肩七分袖

かつては、五分袖でタイコが乳首の上のものを関東彫り、七分袖でタイコが乳首の周りまでの大きいものを関西彫りと呼びましたが、今はそれほど厳密に区別されていない様です。

私の所ではタイコの大きさについて、お客さんの要望がない場合には、お客さんそれぞれの体格や図柄に合わせて私が良いと思う大きさにしています。人によって乳首の位置も違いますからね。

袖の長さは七分と呼んではいますが、厳格に七分目という訳ではなくだいたい手首から肘までの中間の長さです。彫り師によっては八が末広がりで縁起が良いという事で、わざと八分袖と言ったりする事もある様です。

龍と紅葉
と紅葉

肩九分袖

長袖とも手首とも言います。

こちらも五分袖の場合と同じく、手首のくるぶしまで入れてしまうと、手を伸ばして何かを取ろうとした時などに長袖の袖口から刺青が見えてしまいますので、支障のある方は注意が必要です。

雷神
雷神

手首足首まで全身に彫るのを土方彫りや臥煙彫りと言って、着物を着る機会が多かった時分には品が無いとされて来ました。胸のタイコ部分も、古い写真を見ると関東彫り・関西彫りともに現在の物よりはるかに小さく彫られているのが分かります。着物の衿もとや袖・裾から刺青が見えるのは粋じゃない、見えてもチラ見せ程度まで、という訳です。

しかし、着物を着る機会のほとんど無くなった今では、洋服で隠れるところには大きく長く入れる傾向にあります。

伝統刺青 額彫り2 に続く

刺青師・ 龍元