彫り人知らずの極上彫り物 [二柱神社 其の一] 栃木県

伍子胥 神社仏閣
プロフィール

彫師歴四半世紀余。東京六本木にて刺青芸術工房龍元洞を主宰。
日本のみならず、世界中で日本伝統刺青に注目が集まる中、世界の刺青大会に参加、北米・南米・欧州・豪州など各国の刺青師と交流。日本古来伝統の手彫りの技術の継承・研鑽とともに、日本文化の紹介にも力を注いでいます。

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令和四年七月中旬 栃木県佐野市の二柱神社に参拝しました

二柱神社鳥居

こちらには5、6年前にも参拝しましたが もの凄い彫り物の数々を全く消化しきれなかったので再訪しました

二柱神社拝殿

貞享元年(1684)創建
寛政九年(1797)現社殿再建
御祭神 高皇産霊神たかみむすびのかみ 神皇産霊神かみむすびのかみ
本殿彫師 磯辺儀左衛門秀重

二柱神社拝殿向拝

元々は聖天様だったのを 明治の神仏分離令で御祭神を入れ替えた様です

向拝の龍

随分と奥目の龍です

龍

御本殿と幣殿は透き塀に囲まれ 庇が掛けられています 

二柱神社

幣殿胴羽目には農耕図  この日は曇天だった為 中は暗め

二柱神社幣殿

御本殿の彫り物は名工・磯辺儀左衛門秀重の作ですが 幣殿の彫り物は後付けで 彫り人知らずだそうです

農耕図

こんなに生き生きとした人物を彫るなんて 只者ではない事は確かです

農耕図

稲刈りの様子

農耕図

二十四孝の唐夫人はギョッとしますが こちらは ほのぼのとします  私が子供の頃は若いお母さんが そこら中でおっぱいボロンとやってましたね

農耕図

幣殿の右面にも胴羽目は二枚あった様ですが 一枚しか見えませんでした

田植えの様子

農耕図

どうやら反対から回ってしまった様です

農耕図

御本殿向拝にも見事な胴羽目がありました これも後付けの彫り人知らずの様です

二柱神社御本殿

見事としか言いようがありませんが 画題は?

二柱神社御本殿

困った時の橘守国たちばなもりくに頼み 絵本写宝袋に元絵を見つけました

写宝袋の説明文は崩字なので私には読めませんが それでもなんとか「かなえ」という文字を見つけました 鼎とは まあ 火鉢 大鍋みたいな物の様です

橘守国 絵本写宝袋

色々探して 北斎の絵を見付けました 北斎は江戸後期の人なので 文字がカタカナと漢字です

伍子胥千斤の鼎を揚げて文を作り自ら書す

伍子胥ごししょ 千斤のかなえを揚げて 文を作り 自ら書す」と書いてあります

千斤の鼎を揚げて詩を作る者を会盟の主輔にというので伍子胥が鼎を揚げて詩を書き皆驚く

なんでこんな事してるの? 調べると

千斤せんきんの鼎を揚げて詩を作る者を会盟の主輔にというので 伍子胥が鼎を揚げて詩を書き 皆驚く」

という事が分かりましたが これ以上は またいつの日か勉強します 多分 出典は史記です

二柱神社御本殿

向拝柱の龍は 拝殿向拝の龍に似ている気がしますが 同じ人でしょうか?

向拝柱の龍

こちらは御本殿向拝の右面

二柱神社御本殿

こちらも史記から  完璧帰趙かんぺききちょう(璧をまっとうして趙に帰る)
完璧の語源と言われているみたいですが 私は最近まで完璧のへきの字を かべと書いていました 璧というのは玉の事みたいですね

完璧帰趙

小国・趙の恵文王はを手に入れたが 大国・秦の昭襄王しょうじょうおうが15の城と交換しようと持ちかけて来た

そこで藺相如りんそうじょが使者として璧を携えて行き 昭襄王に献上した

昭襄王が璧を愛妾や側近に見せびらかすのを見て 城を渡す気の無い事を悟った相如は

「璧には傷がございます 指し示させていただきたく存じます」と言って 王から璧を受け取ると

昭襄王

「王に城を渡す気がないのは分かりました 私から璧を奪おうとすれば 璧もろとも頭を柱に打ち付けて死ぬまで!」

藺相如

大王必欲急臣 臣頭 今与璧俱砕於柱矣
(大王必ず臣に急にせんと欲せば 臣の頭は 今璧とともに柱に砕けん)

大王必欲急臣 臣頭 今与璧俱砕於柱矣

この後 相如は無事に璧を趙に持って帰ります

左面に比べると随分ヘビーな話ですね まあ 中国の話はどれもカタイですけど。。。

御本殿の方もすごく良い彫り物が満載だったのですが 写真が多くなり過ぎたので また次回に。。。

刺青師・龍元

097-01(2022.08.04)

コメント

  1. onijii より:

    onijiiです。
    こちらは彫刻てんこ盛り。
    愛好家大喜びの神社ですね。
    いい顔。素晴らしいですねえ。
    力神目的だったので、よく
    見てませんでした。(笑)

    • 私も前回訪れた時には圧倒されてしまって、良く見ませんでしたね。「凄い」という事しか記憶にありませんでしたが、今回来てみて仰天しました。
      彫刻の内容的には妻沼聖天堂よりマニアックですが充実してますね。

  2. より:

    流石!!龍元さん!!
    中国系は(も)分からない事だらけですが、勉強になります、ありがとうございます。
    Onijijiさん ここの胴羽目彫刻をよく見ていなかったって・・・、力神に憑りつかれていますね(笑)。

    • 困った時の守国頼みですね。
      橘守国は10冊位絵手本を出してますが、その内の「絵本写宝袋」と「絵本故事談」は神社彫刻のバイブルみたいな本ですね。浮世絵などにも多大な影響を与えたと言われている様です。

      • マサツグ より:

        初めて拝読させていただきました。
        とても勉強になります。私の実家の近くに誰にも見向きもされていない古い神社があり、たまたまなかを覗くと(胴羽目というところでしょうか?)立派な彫刻がありびっくりしました。それ以来あれはなんなんだと思っていたところ、龍元さんのホームページにたどり着き、長年の疑問が解けました。ありがとうございました。

        • 記事を読んで頂きありがとうございます。長年の疑問が解けたとの事ですが、そう言って頂けると嬉しいです。

          関東、特に北関東には、見事な彫刻で飾られた見向きもされない古い神社が沢山ありますが、何処も過疎化と資金難で社殿を維持する事すら困難になって来ている様です。行政の保護が無い所も多く、文化財が消滅して行くのは本当に惜しい事ですね。

          私は彫刻を見るのが好きで回ってるだけですが、寺社彫刻に興味を持ってくれる人が増えれば、消滅のスピードを少しでも遅らせる事が出来るのではないかと思います。

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