GHQが削り落としを命じた物は一体何だったのか 嶋村伊三郎好寛 [駒形神社] 茨城県

神社仏閣
プロフィール

彫師歴四半世紀余。東京六本木にて刺青芸術工房龍元洞を主宰。
日本のみならず、世界中で日本伝統刺青に注目が集まる中、世界の刺青大会に参加、北米・南米・欧州・豪州など各国の刺青師と交流。日本古来伝統の手彫りの技術の継承・研鑽とともに、日本文化の紹介にも力を注いでいます。

刺青師・ 龍元をフォローする

令和四年 新年寺社彫刻巡礼の旅 第二十四社目、茨城県那珂市の駒形神社に参拝しました。

案内板によるとGHQに削除を命じられた彫り物があるらしいです。GHQというのは General Headquarters の略で第二次世界大戦後に日本を占領統治した、いわゆる進駐軍の事です。

創建年不詳
安永十年(1781)彫刻完成
彫師 嶋村伊三郎好寛
御祭神 保食神うけもちのかみ

拝殿向拝には龍と社号額。兎ノ毛通しには鳳凰です。

裏へ廻ります。

見事な御本殿です。案内板によると、彫師は嶋村伊三郎好寛。文化遺産オンラインによると、「彫刻師・嶋村好寛は江戸初期に現れた彫工の祖嶋村俊元の流れを組む常陸府中嶋村伊三郎の系統と思われる」との事。

正面

向拝の龍です。

左側から。

扉脇板には養老伝説の彫り物がありました。孝行息子の源丞内げんじょうないが山で酒の流れる不思議な滝を発見し、老いた酒好きの父親に呑ませると若返った、という話。

この話を聞いた元正天皇は当地に行幸され、孝心にめでて源丞内げんじょうない美濃守みののかみに任じ、元号を養老と改めた、という事です。

扉右側脇板のこちらのお方は服装からすると高貴そうな人なので、以前はこの人が元正天皇だと思っていたんですが、元正天皇は女性なんですよね。じゃ、コレは誰?

正面頭貫上には葡萄に栗鼠。子孫繁栄の吉祥図柄でよく見かけます。刀の鍔なんかにも良くある図柄ですが、そちらは「武道に律す」という事らしいです。チョットこじ付けっぽい。

右面

二重虹梁間には猩々しょうじょうがありました。汲んでも汲んでも尽きない酒甕と呑んでも飲んでも酔わない人間ではない生き物。

胴羽目。コレがGHQに削除を命じられた、という問題の彫り物です。

むむむ、痛々しいです。

那珂市教育委員会のサイトには「八幡太郎義家」となっていますが、これは須佐之男命の八岐大蛇退治っぽいですね。多分、元々は剣を持っていたのだと思います。

腰羽目には駒形神社だからなのか、馬がありました。

背面

斗栱間の彫り物が外れかかってますね。

胴羽目。ウヒャー、これはムゴい‼︎見るに堪えません。

那珂市教育委員会のサイトではこれも「八幡太郎義家」となっていますが、「応神天皇誕生」だったのではないかと思います。あくまで素人の推測です。

腰羽目は犀です。

左面

こちらも二重虹梁間には猩々。親孝行の高風の元に現れて、汲んでも汲んでも尽きない酒甕を置いて行きます。

胴羽目。那珂市教育委員会のサイトでは「竜宮」となっています。

亀に乗った浦島太郎の様に見えますが、これは服装から判断して彦火火出見命ひこほほでみのみことだと思います。いわゆる山幸彦ですね。兄に借りた釣り針を失くしてしまい、探しに来た竜宮で釣り針の事をすっかり忘れて豊玉姫とよろしくやってしまう神さまです。浦島太郎話の原型と言われています。

腰羽目は亀でした。


案内板には昭和二十年九月にGHQの指令を受けて削られたとなっていますが、ポツダム宣言受諾が昭和20年8月14日、9月2日に降伏文書に調印して終戦ですから、随分と動きが速いですね。

文化遺産オンラインには「GHQの神道指令をはじめ軍国主義的要素を排除する命令を受けて、この部分も該当するのではないかと思った神社関係者によってなされた」とあります。

神道指令というのは、昭和20年12月15日にGHQが日本政府に送った国家神道の解体に関する覚書の事。つまり、GHQがコレ削れと指示した訳ではなく、GHQを恐れた神社関係者が、何か言われるより前に自ら判断して削り取った様ですね。慌てぶりが目に浮かびます。

戦時中はアメリカ・イギリスを「鬼畜米英」と呼んでたらしいですからね。鬼の様に恐ろしいと思っていたのでしょう。色々な流言飛語が飛んだと聞いた事があります。

ここは彫り物も見応え充分ですが、進駐軍を恐れて自ら彫り物を削ってしまったという事自体も歴史的な意味があると思います。保護するとか、もっと世に知らせるとかした方が良いんじゃないかなぁ。少なくとも雨晒しは良くないよなぁ。

刺青師・龍元

024(2022.02.16)

コメント

  1. onijii より:

    onijiiです。
    河野弘著「いばらきの装飾社殿」によると、
    「古老が悔いていたように、有らぬ風聞に
    惑わされて貴重な彫刻を台無しにしてしま
    ったことは惜しまれる」とあります。
    とても残念なことですね。

    • 「有らぬ風聞に惑わされて」
      まさにその通りだったんでしょうね。現代にも通じる話です。気を付けたいと思います。

      神社を廻ると、学校では教わらない埋もれた歴史に遭遇する事がありますが、これも神社巡りの魅力の一つですね。

  2. より:

    敗戦国の国民の慌てぶりが想像できるような気がします、どうしたら良いのだろう?などなどいろいろと慌てふためいていたことだと思われます。御本殿を破壊するよりも、難癖を付けられそうなところを削除したのは、当時としては最善の案だったのかと想像します。彫刻題目の説明は龍元さんが正解ですね!!公的な機関の誤情報はたまにありますね、こういう誤情報が、いかにも正しい情報 として広まってしまうと情報が混乱するので、誤情報と分かった時点で修正して欲しいですね。

    • 誤情報はたくさんありますね。なるべく検証する様にしていますが、素人の部外者には出来ない事もありますから、看板を信じるか推測するしかない事も多いですね。

      押し並べてお役人は誤りを認めたがらない人種ですね。

タイトルとURLをコピーしました