刺青を入れる決心をしたら、先ず最初にやらなければならないのは図柄を決める事ですが、何をどこに入れるかをあれこれ考えるのも楽しいものです。というか、この時が一番楽しいという人もいます。基本的に消えない物ですから後悔の無い様に慎重に考えたい所です。
先ず、将来的にどういう形にするのか。小さな物だけにするのか、総身彫りとまでいかなくてもある程度の大きさの伝統的な彫り物にするのか。
小さな物を一つだけ、いわゆるワンポイントにするのであれば、それこそ何でも好きな物を好きな所に入れるというのが正解です。世の中には、色々な彫師のワンポイントを集めるタトゥーコレクターもいますし、ソレはソレで良いのですが、増やして行った時に全体の統一感が出しにくいのが難点です。
まあ、コレでは身も蓋も無いので、これからは伝統刺青について書きます。
伝統刺青
刺青を入れる場所
伝統刺青は総身彫りが最終形として想定されていますので、どこから始めても格好良く仕上がる様になっていますが、やはり一番面積が広い背中から始めるのが間違いないでしょう。先ず背中を仕上げてから、背中に合わせて肩などのデザインを決めると全体の統一感が出ます。
例えば、
- 背中に源頼光の土蜘蛛退治、両肩に頼光の家臣である渡辺綱と坂田の金時
- 背中に千手観音、お腹に千手観音の眷属である風神と雷神
など、先ずメインになるモノを入れて、それに関連したモノで広げて行くやり方です。
ただ、イキナリ背中に大きなモノでは躊躇してしまう人もいますね。そんな人は肩から始めるのも良いかも知れません。というか、今は肩から始める人の方が多いかも。
背中なら背中いっぱいに、肩なら肩いっぱいに一つの図柄を入れるのが基本です。背中の左半分とか上半分だけとか、半端な大きさで入れると後で増やす時に困る事が多いです。
刺青図案
さて、何を入れるかですが、
先ず大雑把に人物を入れるか動物を入れるか決める、人物と決めたら次には神様仏様系にするのか武者絵にするのか、武者絵と決めたら次はサムライにするのか忍者にするのか…
など大きい括りから選んで段々と絞って行くのも一つの方法です。
人物 | 神仏 | 男神 | スサノオノミコト、ヤマトタケルノミコト など |
女神 | アマテラス大神 羽衣天女など | ||
仏 | 如来系、明王系、観音系、眷属 など | ||
武者絵 | 侍 | 渡辺綱、平維茂、武蔵坊弁慶など | |
忍者・妖術使い | 児雷也、大蛇丸、虎王丸、暁星五郎など | ||
任侠もの | 団七九郎兵衛、金神長五郎、水滸伝など | ||
美人画 | 雨乞い小町、小町桜の精、静御前など | ||
動物 | 実在 | 虎、鯉、金魚、蛇など | |
霊獣 | 龍、唐獅子、鳳凰、麒麟、漠など | ||
植物 | 桜吹雪、菊水、岩牡丹、百花繚乱など | ||
非生物 | 般若面、宝船、面散らし、縁起物尽くしなど |
図柄の組み合わせ
額で仕上げる場合には桜・菊・牡丹・紅葉・蓮・朝顔・銀杏などの花を一緒にあしらうと華やかになりますが、なるべく季節を統一すると良いと思います。しかし、図柄によって例えば、唐獅子には牡丹、虎には竹と笹と牡丹、龍には菊か桜か紅葉など、決まった組み合わせ以外はダメなモノがあります。また、団七九郎兵衛の朝顔、小町桜の精の桜、平維茂の紅葉狩りなど、出典である物語の上で花が決まっている場合もあります。
全身で花を統一する必要は必ずしもないのですが、少なくとも背中なら背中、肩なら肩で季節を統一するのが慣わしです。
その他、獅子と龍は対にならないなど、不可の組み合わせもあります。
刺青のジンクス
それから、ジンクスというのもあります。元々は語呂合わせや駄洒落の様なモノが由来である事も多いのですが、
- 首周りや手首足首に数珠など長モノを巻くと身を締めるから良くない
- 恋人の名前を入れると別れる
などは広く信じられています。逆にコレを入れるとゲンが良いというモノもあります。これらは職業や年代・地域によっても変わってきますし、極端な事を言えば人によっても違います。
伝統刺青には、長い歴史の中で良い物が取捨選択され残って来た事で風雪に耐えた重みがあります。が、もちろん時代によって廃れて行く物、流行の物もやはりあります。近年はインターネットの発達に伴って、廃れつつあった物が復活して来たりして嬉しい限りですが、逆に図柄の背景を良く知らないが故に、間違った解釈の刺青も散見されます。
私も日々勉強・精進あるのみです。
刺青芸術工房 龍元洞
刺青師・ 龍元