私は色んな所で「手彫りは痛くない」と言ってますが、それはあくまで機械彫りに比べてという事です。肌に針を刺す訳ですから、手彫りにしろ機械彫りにしろ、それなりの痛みを伴います。
独特の痛みなので例えるのは難しいのですが「切れないカッターで切っている感じ」とか「痛いというより熱い」と言ったりします。
痛みの感じ方は人によります。痛みに強い人もいれば、弱い人もいます。ただ感覚が鈍いという人もいますし、痛みに敏感だけど我慢強いという人も居るでしょう。
痛みは数値化出来ませんから、実際の所どれ位痛いのかは自分で感じてみないと分かりません。
が、刺青を入れている人は沢山いる訳ですから、我慢出来ない痛みではない筈です。
痛みを少しでも減らす方法
痛みを無くす方法というのは麻酔を使う意外にありませんが、刺青彫師が麻酔を使うのは御法度。医師免許が無ければ麻酔薬を扱う事はできません。
痛いからと言って、墨を突いている時に息を止めちゃってる人がいますが、これでは痛みが増しますね。
あと、身体中ガチガチに力を入れるのも痛みが増します。
肌を張らないと墨が入りませんから、ギュッと力を入れて縮こまってしまうと、同じ所をもう一回突かなければならなくなりますし、力を入れ過ぎてブルブル震えちゃったりすると、彫師の手元が狂って仕上がりに影響する事もあります。
ゆっくり呼吸して動かず、力を抜いてリラックスするのが一番です。
手彫りは一定のリズムがありますから、突いている時にはゆっくりと息を吐き、肌の墨を拭っている時に息を吸う。慣れた人はこうやって痛みを和らげます。
まさに彫師とお客さんで呼吸を合わせる訳ですね。
それから空腹は感覚を先鋭化させます。施術の1〜2時間前に腹八分目の食事を摂りましょう。食べ過ぎは禁物。
睡眠不足もよくありません。二日酔いなどもっての外です。
予約の前の日は早めに寝て体調を万全に整えましょう。
昔は「痛みを気にするならやめろ」と言いました。彫ってる最中に痛いなんて言ったら「じゃあ今日はここで止めておこうか」と続きをやって貰えなかったと云います。
私はそんな風にした事はありませんけど。
それでも20年位前までは、お客さんも「痛い」と言いたい所を懸命に「気持ちいいっスね」なんて言い換えてましたね。
昔は予約を詰めて入れていたので、次の人が早めに来たり、前の人が世間話がてら見学して帰ったり、なんて事が有りましたから、特に漢を売る商売の人は痛そうにして安目を売る訳には行かない訳です。
今はお客さんとお客さんの間は時間を空けているので、前後のお客さんと鉢合わせする事は有りませんが。
何年か前にニューヨークのとあるタトゥースタジオに仕事に行った時の事です。
背中一面の刺青を入れにアメリカから六本木に通って来てくれていたお客さんが、五日間毎日続けて彫りに来てくれました。
連日の背中はかなりキツいという事は彫師だったら誰でも知ってる事。スタジオの彫師がお客さんに向かって「アンタ毎日凄いナ」と話し掛けると「凄いのはRyugen だよ、俺はただ横になってるだけだから何て事はない」なんて平然と答えてました。
コレが粋な漢の痩せ我慢。国が違っても変わらないモノって有るものです。
痺れますな。
刺青師・龍元