カナダ入国顛末記

プロフィール

彫師歴四半世紀余。東京六本木にて刺青芸術工房龍元洞を主宰。
日本のみならず、世界中で日本伝統刺青に注目が集まる中、世界の刺青大会に参加、北米・南米・欧州・豪州など各国の刺青師と交流。日本古来伝統の手彫りの技術の継承・研鑽とともに、日本文化の紹介にも力を注いでいます。

刺青師・ 龍元をフォローする

確かに予兆はあった。

「お客さまは eTAを取得していないので、当機にお乗せする事はできません」

アメリカのシアトル空港でカナダ・カルガリー行きの飛行機にチェックインしようとした時の事。

eTAというのは今流行りの電子ビザ。2016年からビザを持っていない日本人がカナダに入国するには前もってeTAを取得しなきゃならなくなった。アメリカ入国にもESTAという電子ビザが必要で、これは取得していた。

「カルガリーの入管でワークパーミット(就労ビザ)を取るんで、eTAは要らないんです。毎年行ってるから大丈夫」

カナダへは刺青の仕事で2011年に初めて行って以来、もう15回以上行っているが、毎回、現地で就労許可を取る事にしている。

カウンターのお姉さんは中々ウンと言わなかったけど、書類を見せて、30分以上拝み倒して乗せて貰って、やっとここまで来たのだ。


ここはYYC カルガリー空港の入国管理局の受付。

「ワークパーミットを申請したいのですが」
「あなた eTAを取得してないわね」
「??…いや、就労ビザを申請したいのです。書類はありますよ」
「あなた日本人でしょう?なら eTAが必要よ。フン、まあいいわ。そこの椅子に座って名前を呼ばれるのを待って」

実は2011年に初めてカナダに仕事で行った時に「観光」で入国しようとしたら、入国審査で弾かれて、別室でガン詰めされ、危うく強制送還されそうになった。その時の入国審査官は厳しかった反面、親切というか同情的なところもあり

「3日の猶予をあげるから、コレコレの書類を揃えなさい」

と言って入国を許可してくれた。

もちろん自力で書類を揃えられる訳は無く、カナダの友人達が走り回って揃えてくれた。

申請には155ドル掛かるが、それで堂々と入国出来るなら安い物。


新型コロナで3年ぶりのカナダだった。1時間以上待っているが、中々名前を呼ばれない。

「〇〇!」

やっと呼ばれたが、なんかあまり友好的な雰囲気ではない。入国審査官は30才位、小太りの白人女性で、最初っから叱責口調だった。

「あなた、何で eTA 取ってないの!」
「何でって… タトゥーコンベンションの主催者が要らないって…」
「何で主催者が知ってるのよ!eTAが無きゃ入国出来ないキマリなのよ。大体どうやって飛行機乗ったの!」」
「この書類を見せました…私はパンデミック以前は毎年来てたんですが、eTAが必要なんて言われた事が無いですよ…」

審査官はディスプレイを見ながら

「あなた、過去6年間不法入国ね。まったく、どんなトリックを使って忍び込んだのかしら?」
さすがにこの言葉には頭に来て

「何言ってんだよ!あなたの目の前の、この通路を通ってあそこのゲートを通りましたよ!記録が残ってるでしょう。オレのせいじゃないよ、今まであなた達、eTA が必要だなんて言わなかったじゃないですか」と語気を強めて言ってしまった。

すると審査官はブチ切れて

「そんなの関係無い!私は私の仕事をしてるの!彼は彼の仕事をするし、彼は彼の仕事をしてる!彼だって彼の仕事をしてるのよ!」

と、隣に並んだブースで仕事をしてる同僚達を次々に指差し始めた。

「分かった、分かったよ。本当に知らなかったんです」

確かに過去にお咎め無しだったから今回もOKと言う訳に行かないのが法律という物。

「あなた、スマホ持ってるわね。グーグルでこれを検索しなさい」
と言って、メモ帳に eTAと走り書きして、こちらに寄越した。

「eTAなら知ってるよ。サイトも読んだ事がある」
「いいから検索して今ここで読みなさい」
とこんな感じで、まるで学校の先生に怒られているみたいだ。

オレがeTAのサイトをいじっていると、審査官は意地悪に笑いながら
「何やってるのよ、もうここで申請はできないわ」

これをイジメと言わずに何と言うのか。

「じゃあ どうすれば良いんですか」
「選択肢は二つあるわ。一つは今からシアトルに戻ってeTAを取得する…」

「えええ⁈そんな!じゃ、もう一つは?」
「200ドル払って書類を取得しなさい。これで入国を許可します。どちらにするの?」

「払いますよ、200ドル」

と文字で書くとあっという間だけど、このやり取りで30分以上。

しばらく待たされて、なんとかWP(就労許可証)の他に、TRP(一時居住許可証)というのを貰った。

窓口でWPの155ドルとTRPの200ドル計355ドルを払って、書類を整理して鞄に仕舞っていたら
「〇〇‼︎」
また名前を呼ばれたので見ると、ペンで手招きをしている。

「あなた、どこの飛行機で来たの?チケット見せなさい。航空会社にもペナルティを与えなきゃ」
とニヤニヤしている。

まさにパワハラ、下手すりゃあアジア人差別も入っているのか。

ただの手続きの不備なんだから、次回から気を付ける様に厳重注意するか、必要なら入国不許可にすればいい。圧倒的な立場の違いを利用して、あんなにネチネチと威圧的に虐める必要がどこにあるのか?

この人よっぽどストレス溜まってんだろうな。何だか、この人の事が気の毒になって来た。でも、あなたのツマラナイ人生、オレのせいじゃないよ。


日本に帰国した時はパスポートを機械にかざして誰とも話さず、特に申告する物も無かったので、「ご苦労様です」「お帰りなさい」で税関を通過してゲートへ。

やっぱり自分の国って良いよね。

刺青師・龍元

タイトルとURLをコピーしました